「ビジネスシーンだからこそ必要とされる敬語の使い方が分からない」と悩んでいませんか?敬語の使い方をマスターするのは意外と簡単です。その理由は尊敬語・謙譲語・丁寧語の違いを理解すればいいからです。とはいっても、ただ違いを理解するだけではさまざまな場面に応用しにくいですよね。そこで今回は、基本的な敬語の使い方やビジネスシーンで覚えておきたいポイントを紹介します。あなたの敬語力を見極めるための練習問題も用意しているので、ぜひ最後までご覧ください。
敬語の種類
敬語は主に
- 尊敬語
- 謙譲語
- 丁寧語
の3種類があります。
どの敬語も相手への敬意を示すものですが、お互いの関係性や状況に応じて使用する場面は異なります。
尊敬語
尊敬語は相手を高めることで敬意を示すものです。目上の人の行動や状態など、相手に関係する事柄に対して使います。
「おっしゃる」(「言う」の尊敬語)のように動詞の形そのものが変わる場合もあれば、動詞に「お(ご)~になる」「れる」「られる」を付ける場合もあります。
謙譲語
謙譲語は自分をへりくだることで相手への敬意を示すものです。自分または身内の行動や状態に対して使います。
「伺う」(「行く」の謙譲語)のように動詞の形そのものが変わる場合もあれば、動詞に「お(ご)~する」を付ける場合もあります。
また、2007年に文化審議会が述べた『敬語の指針』では、謙譲語を謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱ(丁重語)に分けて解説しているのをご存じでしょうか。この記事ではまず敬語についてざっくり理解してもらうため「謙譲語」とまとめて紹介していますが、実はほんの少し意味合いが違うのです。
ビジネスシーンでの敬語に慣れてきたら、謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱの使い分けにも注目してみてくださいね。
(参考:敬語の指針)
丁寧語
丁寧語は物事を丁寧に伝えることで相手に敬意を示すものです。行動を起こす人物やお互いの立場に関係なく使われ、語尾に「です」「ます」「ございます」を付けます。
基本的な敬語の使い方
適切な敬語を使うためには、基本的な部分を忘れてはいけません。ここで紹介する3つの項目は敬語を学ぶ際につまずきやすい部分でもあるため、しっかりと覚えておきましょう。
- 尊敬語と謙譲語の使い分け
- 「お」と「ご」の使い分け
- 二重敬語
尊敬語と謙譲語の使い分け
尊敬語は主語が相手のとき、謙譲語は主語が自分または身内のときに使います。
「尊敬語と謙譲語の使い分けが難しい」と感じたことがある人は多いかもしれません。その場合は主語が誰なのか、その動作を行う人物は自分なのか相手なのかを明確にすると判断しやすくなります。
(例文)
会議で使う資料を自分が見た場合
「会議で使う資料をご覧になりました」☓
→「会議で使う資料を拝見しました」○
お客様から質問されたが対応しきれなかった場合
「○○窓口で伺ってください」☓
→「○○窓口でお聞きください」「○○窓口でお尋ねください」○
「お」と「ご」の使い分け
基本的に和語には「お」、漢語には「ご」を使います。
- お願い
- お知らせ
- ご依頼
- ご安心
などが主な例です。ちなみに和語は昔から日本にある言葉で訓読みするもの、漢語は中国から伝わってきた言葉で音読みするものを指します。
外来語や動植物、公共施設などには「お」や「ご」を使いません。ただし例外として「お(ご)誕生」「お(ご)返事」など両方使えるものや、「ごゆっくり」「お電話」など逆の方が馴染み深いものもあります。
二重敬語
基本的に一つの言葉に一つの敬語表現を使うよう心がけましょう。二重敬語を使うと過剰な敬語になり「丁寧すぎて逆に失礼だ」と感じる人もいます。ちなみに二重敬語とは、一つの言葉に同じ種類の敬語を二つ以上重ねているもののことです。
(例文)
「〇〇さんがおっしゃられていました」☓
→「〇〇さんがおっしゃっていました」○
(「おっしゃる」は「言う」の尊敬語、「られる」は動詞に付け足して尊敬語にするもの)
よく使う敬語の変換表一覧
日常生活やビジネスシーンでよく使われる15個の敬語を変換表にまとめました。よく使われる敬語を知っておくだけでも「尊敬語(謙譲語)で表現するにはどう言ったらいいのだろう?」と悩む場面が少なくなりますよ。
動詞 | 尊敬語 | 謙譲語 |
言う | おっしゃる | 申す、申し上げる |
聞く | お聞きになる | 伺う、拝聴する |
する | なさる、される | いたす |
いる | いらっしゃる、おいでになる | おる |
行く | いらっしゃる、おいでになる | 参る、伺う |
来る | いらっしゃる、おいでになる、お見えになる | 参る |
知る | ご存じ | 存じ上げる、存じる |
見る | ご覧になる | 拝見する |
食べる | 召し上がる | いただく、頂戴する |
伝える | お伝えになる、お伝えくださる | お伝えする、申し伝える |
分かる | ご理解いただく、お分かりになる | かしこまる、承知する |
帰る | お帰りになる | 失礼する |
会う | お会いになる、会われる | お目にかかる、お会いする |
あげる | お与えになる、くださる | 差し上げる |
もらう | お受け取りになる、お納めになる | いただく、頂戴する |
ビジネスシーンで覚えておきたいポイント
ビジネスシーンで必要とされる敬語を使えると信用されやすくなり、信頼関係を築くきっかけになります。以下の3つのポイントを忘れないでくださいね。
- 立場や関係によって変わる呼称
- クッション言葉
- 間違えやすい敬語
立場や関係によって変わる呼称
立場や関係によって自分や相手の呼称は異なります。間違った呼び方をすると失礼にあたる場合もあるので気を付けてください。
また、社外の人と接する際は社内の人を身内側として捉えます。そのため、社内では「〇〇社長」と呼んでいても、社外では「〇〇」「社長の〇〇」と呼ぶのが適切です。立てるべき人物はあくまで社外の人(お客様)なので、社内の人に関するものは謙譲語を使いましょう。
呼称 | 自分 | 相手 |
個人 | 私(わたくし)、こちら | 〇〇様、お客様 |
同行者 | 連れの者 | お連れ様、ご同行の方 |
会社 | 弊社、当社、私(わたくし)ども | 御社 |
役職 | 社長、社長の〇〇 | 〇〇社長、社長の〇〇様 |
両親 | 両親、父母 | ご両親 |
家族 | 家族、私(わたくし)ども | ご家族、ご家族の皆様 |
「社長」「部長」などの役職名には、すでに相手への敬意が込められています。「社長さん」のようにさん付けで呼ぶ必要はありません。
クッション言葉
好印象を与えたいなら、クッション言葉を上手に活用するのが鍵になります。クッション言葉とは、本題の前に添えることで丁寧で柔らかい印象を与えるものです。何かをお願いするときや断りたいとき、質問したいときなど、さまざまな場面で使われます。顔が見えないメール文書ではとくに効果的です。
よく使われるクッション言葉は
- 恐れ入りますが
- お手数おかけしますが
- 申し訳ありませんが
- 差し支えなければ
などがあります。
(例文)
〇〇についての資料を作成いたしました。ご確認をお願いします。
→〇〇についての資料を作成いたしました。お手数おかけしますが、ご確認をお願いします。
間違えやすい敬語に注意
ビジネスシーンでは、バイト敬語や「~させていただく」の使い方に注意しましょう。
バイト敬語とは、飲食店やコンビニなどの接客業でよく使われる独特の言葉遣いのことです。「了解しました」「こちらでよろしかったでしょうか?」などのフレーズが主な例ですが、場合によっては失礼にあたります。
また、「~させていただく」を使えるのは二つの条件を満たしたときのみです。
- 相手側または第三者の許可を受けて行う場合
- そのことで自分が恩恵を受けるという事実や気持ちのある場合
(参考:敬語の指針)
敬語を使おうと意識するあまり「~させていただく」という言葉を頻繁に使う人は多いです。しかし、条件を満たさないものに使うとかえって失礼にあたり、回りくどい言い方だと捉えられることもあります。
特定の条件以外の場合に「~させていただく」を使いたいときは「いたします」に言い換えましょう。
(例文)
「了解しました」☓
→「承知しました」「かしこまりました」○
「お手元にある資料についてご説明させていただきます」☓
→「お手元にある資料についてご説明いたします」
シーン別の敬語の使い方
ここでは、ビジネスシーンでよく使われる敬語を「メール編」と「会話編」に分けて紹介します。
なるべく使うよう心がけ、少しずつでも敬語に慣れていきましょう。
メール編
ビジネスメールでは、冒頭の挨拶と文末の締めの言葉を入れるのがポイントです。相手との関係性やメールの内容によって使い分けると、より良い印象を与えられますよ。
挨拶の言葉
「いつもお世話になっております」
「初めてメールを送らせていただきます」
「いつもご愛顧いただき、誠にありがとうございます」
締めの言葉
「今後ともよろしくお願いいたします」
「どうぞよろしくお願い申し上げます」
「お忙しいところ恐縮ですが、お返事いただければ幸いです」
何かを教えてほしい場合
「教えてください」☓
→「ご教示ください」「ご指導いただけませんか」○
相手に許可を出す場合
「OKです」「問題ありません」☓
→「そのまま進めていただければと思います」
会話編
社内外の人との会話や電話、会議など、社会人になると目上の人と話す機会が多くなります。間違った敬語を使うと自分や会社の信用を失いかねないので気を付けてください。
社内の人間にねぎらいの言葉をかける場合
「ごくろうさまです」☓
→「お疲れさまです」○
かかってきた電話を受け取った場合
「もしもし、株式会社△△です」☓
→「お電話ありがとうございます、株式会社△△の〇〇です」○
電話先の相手の名前を聞きたい場合
「お名前を聞いてもいいですか?」☓
→「失礼ですが、お名前をお伺いできますか?」○
理解してもらえたか聞く場合
「分かりましたか?」☓
→「ご理解いただけたでしょうか?」○
敬語力をチェック|練習問題
敬語の基本的な使い方やビジネスシーンで覚えておきたいポイントなどを学んだところで、敬語力をチェックしてみましょう。練習問題は全部で5問、選択式が4問と記述式が1問です。
練習問題
(1)お客様から質問されたが、自分では対応できなかった。その場合に使う言葉として正しいものを選んでください。
①○○窓口でお尋ねください
②○○窓口で伺ってください
(2)お客様へ料理を提供したときに使う言葉として間違っているものを選んでください。
①どうぞ召し上がってください
②どうぞお召し上がりください
③どうぞお食べください
(3)お客様から聞いた注文をすぐ確認したいときに使う言葉として正しいものを選んでください。
①〇〇でよろしかったでしょうか?
②〇〇でよろしいでしょうか?
(4)目上の人に褒められて謙遜するときに使う言葉として正しいものを選んでください。
①とんでもございません
②とんでもないことでございます
(5)電話応対の際、相手が指定した人物が休みであった場合の正しい答え方は?
答えと解説
(1)①
(「伺う」は謙譲語なので不適切)
(2)②
(「召し上がる」は「食べる」の尊敬語で、「お~になる」も尊敬語。「お召し上がりになる」は二重敬語になる。「お食べください」は敬意の度合いは少なくなるものの、不適切ではない)
(3)②
(「よろしかったでしょうか」は、過去に起きた出来事について確認するときに使うのが適切)
(4)②
(「とんでもない」は形容詞。「とんでも」+「ない」、「とんでも」+「ある」で表現できない)
(5)〇〇は本日休みを取っております。
(「休みをいただいております」だと、休みを取っている人物に対して敬意を示すことになる)
不適切な敬語を避けることに意識を向けるのも手
ビジネスシーンで必要とされる敬語をマスターするには、基本的な知識が欠かせません。社会人としてのマナーも覚える必要があります。
最初は慣れないかもしれませんが、少しずつ適切な敬語を使う機会を増やしていきましょう。そうすることで、自然と敬語が身に付いていきます。
また、適切な敬語を使うことに意識を向けるのではなく、不適切な敬語を避けることに意識を向けるのも手です。
「主語が相手ならば尊敬語を使う」「一つの言葉に複数の敬語表現を使わない」などを覚えておくだけでも、言葉の使い方はずいぶん変わってきますよ。